チーズを作るのに欠かせない”チーズスターター”
タンパク質の凝固を促進し、独特の風味を形成するチーズの製造に欠かせない大切なものです。
しかし、ほとんど輸入品に頼っているのが現状です。
そこで、国産の生乳とスターターを使った日本オリジナルの魅力あるチーズのために、国産乳酸菌を使ったチーズスターター(=Jチーズスターター)が開発され、実用に向けてプロジェクトが進行しています。
この度、公益財団法人 日本乳業技術協会主催で、その「Jチーズスターター」を使って製造したチーズを従来の対照品と比較しながらの試食や、作り手たちのトークセッション、講演にお招きいただきました。
そもそも「スターター」って何?
チーズスターターとは、ナチュラルチーズを作る時に原料乳に加える乳酸菌、カビ、酵母などの微生物のこと。
そして、それらの働きは、①チーズ製造中に乳酸を生成し凝固を促す、②たんぱく質などを分解し、特有の味と香りをつけることです。
チーズ製造には欠かせないものだということが、おわかりいただけるでしょう。
でも、このスターター、絶対必要なわりにはほとんどが輸入に頼っているのが現状なのです。
そこで研究開発が進んでいるのが「Jチーズスターター」。
思えば日本は発酵食品の宝庫ですよね!漬物、味噌、醤油、日本酒などの全国各地で優れた発酵食品が作られています。そしてそこにはご当地ならではの乳酸菌が存在しています。
それらから特にチーズスターターとして適したものが選抜され、Jチーズスターターが作られました。
専門家たちの講演やトークセッションから見えるJチーズスターターへの期待
来賓の農水省 伊藤歩氏は、我が国のチーズの消費量が30年前と比較するとおよそ2倍になっていること、消費されるチーズのうち国産チーズの比率も少しずつ増え、工房の軒数も増加、さらにWCA2024での入賞するなどクオリティも向上している現状を紹介した上で、「この取り組みにより、国産チーズの差別化、価値向上を期待しています。それによる、さらなる需要の拡大酪農の振興も願っています。」と、今後のチーズ業界やこのプロジェクトへの期待をお話しになりました。
一般社団法人蔵王酪農センター理事・営業部長の宮沢秀夫氏による講演は、「チーズ製造の基礎知識とJチーズスターターの意義」がテーマ。
「国産乳酸菌安全性が検証され、本格的に実用化されつつある現状は素晴らしい、将来的にはJチーズスターターを使うことで、海外産チーズにはない特徴を出せる”これぞ日本のチーズ”が登場することを期待しています。」と述べられました。
チーズ工房トークセッションでは、Jチーズスターターにてチーズ製造を試された6つの生産者が、使ってみた感想、メリット・デメリット、消費者の皆様に伝えたいことなどをお話しされました。
モデレーターは、一般社団法人 チーズプロフェッショナル協会会長の坂上あき氏。
いち早くこのプロジェクトに目をつけ、自ら「試してみたい!」と手を挙げられたというニセコチーズ工房の近藤裕志氏。すでに「椛」という看板商品には実用しているとのこと。
「一年経ったくらいのところでミルクの風味が豊かに仕上がった。入れすぎると乳の風味が強く出過ぎるため、使用量を調整する必要がある。」と、海外のスターターと入れ替えて試作した感想を述べられた。
また、”原材料100%国産にするのは長年の夢”と語る白糠酪恵舎の井ノ口和良氏。こちらの工房では、すでにレンネットは国産のものを使用。
「Jチーズスターターの使い方にも様々なバリエーションが考えられるため、色々試していきたい。とにかく、もっとも大事なことは”おいしくなること”。我々はそのために技術を高めていく必要があると思っている。」私たち消費者も期待が高まるコメントですね!
Jチーズスターターを使ったチーズの試食会!対照品との比較はどう?
トークセッション後には、実際にこのJチーズスターターを使ったチーズを、対照品と比較しながら試食できました。
違いは、チーズによって、工房によって様々。一概にJチーズスターターを使うとこういう特徴!というものは見出せず。
しかし、それぞれに違いがあるのは歴然で、業界関係者たちは「よりコクがあり滑らかになっている」「日本人が好みそうなお味」「雑味が少なく、酸が綺麗な印象に仕上がっている」など概ね好評価なコメント。
日本らしいチーズとは
数ヶ月前に開催された世界で最も大きなチーズコンテストのひとつ「ワールドチーズアワード2024」の報告会や、先日の国産ナチュラルチーズシンポジウムなどで話題になった「”日本のチーズ”とは何か」。
出品された日本のチーズは、現地でわりと評価されたものの「いつまでヨーロッパの模倣をするのか」というコメントを受け、「日本らしいチーズとは何なのか」を考え続けている生産者や業界関係者は多いようです。
このJチーズスターターの存在が、その答えを導くひとつのキーとなるかもしれません。
また、EPAにてチーズの関税が撤廃されていく将来においての日本のチーズの競争力強化や、食料自給率の向上への寄与も期待できるのではないでしょうか。
作り手さんやチーズの先生、チーズ仲間に会えて楽しい一日でした。
チーズをふんだんに使った東京ガーデンパレスのシェフによるお料理も美味しかった😋